宇宙線研究所&カブリIPUM 春の一般講演会「物質があふれる宇宙の不思議」(オンライン開催)を視聴しました。

2009年に村山斉先生の物質と反物質の講演を聴いて以来,IPMUや宇宙線研究所の研究成果にわくわくどきどきを知らされて,一般公開や講演会に出かけています。昨年来,コロナでオンライン開催ですが久々に視聴して,とても興味深いお話を聞けたので感想を書いてみようと思います。

日本人のノーベル賞受賞者数は世界第5位ということになっています。それぞれの受賞がどんな業績によるのかという話ですが,ノーベル賞には分野があってその成果が一般の人にもわかりやすいものと言うと平和賞,文学賞(科学以前というか),生理学賞,化学賞,物理学賞の順にになるでしょうか。特に日本ではじめての受賞で有名な湯川博士の中間子理論以来,基礎科学になるほど理解が難しいものだと思います。特に,2008年の小林・益川および南部陽一郎の受賞理由(クォークが少なくとも3世代以上存在するということを予言する対称性の破れの起源の発見と素粒子物理学と核物理学における自発的対称性の破れの発見)の意味を普通に理解できる人は希だと言っていいでしょう。2つとも,「対称性の破れ」という文言が含まれていることに注目できます。素粒子物理学は,加速器をつかって新しい粒子(クォーク)が発見されるかどうかが中心の研究だと理解していた私は,この受賞の意味がまったくつかめませんでした。2009年に村山斉先生の講演(わかりやすい)を聞く機会があって,やっとその意味がわかり,物理学がすごい面白いことになっているなと気づいたのでした。その「対称性の破れ」,の具体的な意味を専門的に理解しているわけではないのですが,物理学的にこれが「想定外」の現象であることは理解できます。どうしたって,自然はえこひいきなく可もなく不可もなく,プラスもマイナスも意図的な偏りを持たない(対称性が成り立っている)のが普通と考えるのが常識だからです。ところが,原子核や電子などの素粒子の世界では,1960年代から次々と,右と左のような対称が崩れている(人の世界と逆になぜか左利きが優勢だったりする)ことが発見されたのです。そして,この対称性の破れがあったからからこそ,宇宙がはじまったビッグバンの時に物質と反物質が生じた際にわずかに物質だけがのこり,現在の物質からなる宇宙が存在しているということになるのです。参考→村山斉「宇宙と私の謎」

当時,村山先生の話によれば,ビッグバン直後の物質と反物質の量のわずかな差を,小林益川理論が予言したCP対称性の破れですべて説明できる訳ではないということでした。その検証となった筑波のKEKでのBelle実験ではB中間子の対称性が検出され,2008年のノーベル賞それから7年,梶田さんのニュートリノ振動に関する発見でノーベル賞が出ました。神岡のカミオカンデ(スーパーカミオカンデ)実験装置による研究では2002年の小柴さん以来2度目になります。そして今回の浅岡先生による講演で,いよいよハイパーカミオカンデの実験(建設)がはじまったこととについて,これまでの経緯と今後期待される成果について知ることができました。参考→ ハイパーカミオカンデの研究目的

2番目の村山先生は,浅岡先生の話を受けて,ニュートリノの対称性の解明が進めば,物質と反物質の謎も説明可能になるかもしれない,また重力波の観測ともリンクして物理学が宇宙創成にさらに迫ることができるかもしれないということを解説してくださいました。カミオカンデ実験は,もともと陽子崩壊という現象を検証する目的で作られたのですが,小柴さんが偶然に超新星爆発によるニュートリノを検出し,梶田さんがニュートリノ振動をこれまた偶然発見して,いままでの標準理論の綻びを明らかにしたと言われています。そういうステップがさらに期待できそうなハイパーカミオカンデの実験開始を知ってワクワクさせられました。私たちがなぜ存在するか,という素朴な疑問(村山先生の講演でいつも出てくる命題)に科学で答えられる日がまた少し近づいた気がしました。

ハイパーカミオカンデのホームページから,その外観