空の明るさマップと天体撮影遠征場所

天文少年だった50年前には,川崎で天の川が見えたこともあった(友人の経験談)のですが,当時から星を見て天体写真を撮るためには,空の暗い場所を求めて移動する「遠征」が欠かせませんでした。現在もどこが暗いかや,冬の道路事情,トイレの有無など選定(晴れる場所もその時々変わる)にはいつも悩んでいます。夜空を明るくして天体観測の妨げになる街明かりのことを「光害」と言います。その度合いを地図に表わした,光害マップがいくつかネットに公開されていますが,人口密度などをもとにしたものよりも,人工衛星の観測によるものが実情に合っているようで,私がもっとも信頼しているのは,産総研地質調査所の「地質図navi」の中にある地形データで表示できる「空の明るさマップ」です。

地質図naviで表示できる空の明るさマップ(データ表示の地形データのタブにある)

天体写真を撮影(※)するには,このマップの色分けで少なくとも薄茶色~緑色の場所でなければならず,黄色で示される場所では,光害カットフィルターをつけない限り,数分の露出で像が真っ白くかぶってしまいます。首都圏の白,ピンク,赤の地域がいかに広大であるかは,房総半島の南東部へ遠征すると,北西側の地平線上が高度45°くらいまでボワーっと明るくなっていることで実感できます。交通の便からしてもよく訪れるのは,八ヶ岳南麓と富士山の西側で,たまに伊豆半島,山梨県の北東側などです。天気の都合で,日光の戦場ヶ原や浅間山山麓の嬬恋などへ出かけたこともあります。空の暗さという点からは水色や青の場所が魅力的ですが,視界の開けた平地や,整備された自動車道がない山岳地帯が多く含まれていることは地図(グーグルマップなど)を詳しく見れば分かります。ただし,所属同好会で毎年夏に合宿を催している南会津は,このブルーやさらに一段暗いあずき色の地帯が含まれていて,日本でも有数の空の暗い場所が人里にもまだ残されていることが分かります(上の図の範囲外)。

空の暗さを表わす指標に,アメリカのアマチュア天文家(ボートル)が考案したボートル・スケールがあります。1~9の9段階で,都会の1等星がやっと見えるような9から,最も暗い天の川の光で影ができるという1まで。いかに,人工の明かりがすさまじいのかを考えさせるために考案されたそうで,現在の日本には1や2の空はないと思われます。私たちが天体写真を撮るのは,多くはボートルスケールの5(緑色)ではないかと思います。確証はないですが,南会津の最も条件の良いときは3なのかと思います。これは人工の明かりの影響や問題を取り上げている,ポール・ボガート著「本当の夜をさがして」白洋社刊を読んでの感触です。ちなみに,現代人が夜でも昼のような明かり(パソコン画面を見るなども)のもとで暮らしてメラトニンというホルモンが作られなくなって癌になっているという話は,もっと知られて良いと思います。つい,最近まで人々は夜はろうそく程度のほんのりとした明かりで過ごしていたことを見直すべきでしょう。

さて,天体撮影に適した場所は,どこなのかという問題ですが,あまり軽はずみにココがお勧めなどと言えば,万が一なにかのトラブル発生の原因になるとも限りません。私なども多くの場合,夜間も解放されている駐車場などを利用していますが,あくまで公的なスペースですから天体撮影専用,ではないということはわきまえなければなりません。仲間内で情報交換はしていますが,ネットでは責任問題になります。それより,どこが良いかをgoogle-mapのストリートビューを使って自分で探すのを楽しみにしています。良さそうなスペースでも,ストリートビューで見てみると,関係者以外立ち入り禁止の看板があったり,トイレが使えそうでも実際に行ってみると,鍵がかかっているとかいろいろあって,想像しながら経験を積むのも乙なものです。厳冬期の星見の翌朝の震えを癒やせる朝6時からやっている立ち寄り温泉まで探したりして,星見の計画を立てる時間も幸福だったりするのです。

※ 正確には,光害カットフィルターを使って都会でも天体写真を撮影することは可能です。