西湖遠征
空の暗い場所へ出かけて天体写真を撮影(星撮り)することを「遠征」と呼んでいます。大袈裟ですが,他に適当な言い方がないので(さらには出撃などとも言ったりしますが不適切ですね)最近,同業者のあいだで定着しているように思います。近頃では,遠征をせずネット環境をつかったリモート観測所(遠隔操作で写真が撮れる)を持つ人も増えていますが,当方には金銭的に縁のない方法とはじめからあきらめています。できるだけ空の暗い場所がいいのですが,以前にも書いたように最も暗い南会津などの遠隔地へ毎回出かけるは大変ですから近いところで,最近何度も利用しているのが富士山麓西湖の西のはずれにある「いやしの里駐車場」です。「いやしの里根場」というかやぶき屋根の集落を復元した観光施設に併設されている場所です。一昨年友人が勧めてくれて以来今度が10回目になりました(23年11月20日)。遠征で星撮りに行くのは,一般に開放されている広い駐車場が最適(農道の端とかはやはりまずいです)と言っていいのですが,富士山麓の星撮り場所としてメッカになっている「朝霧アリーナ駐車場」は新月期の休日となれば同業者であふれかえるような状況ですが,それにくらべここにはほとんど不思議なくらい誰も来ません。首都圏近郊の遠征場所はもうだいたい限られていて大抵見ず知らずの,あるいはブログなどで知られた同業者の方に出会うものなのですが。
今回は秋の紅葉に星空を入れた星景写真を撮ろうかとロケハンをするために,明るい午後4時過ぎに到着しました。平日ですが駐車場には10数台もの車と観光バスが3台も停車していて土産物屋もにぎわっていました。車が100台くらい止まれる広さがある駐車場です。観光バスの乗客はほとんどが外国人で驚きでした。実はいままで,この時間に来たことはなくたいてい5時過ぎ(3月~10月は6時まで明るいから)だと,そのかやぶき集落の営業時間も終わっていて車も三々五々減っていくころなのです(あと下山した登山客が最後の路線バスを待っていたり)。かやぶき集落は山の斜面に沿う高みにあり,春の桜や秋の紅葉プラス富士山が望め写真映えします。はじめてかやぶき集落を訪ねてみましたが,やはり夜間は柵が閉じられて集落に立ち入ることはできず,入り口のわきにある柿がなっているのを入れて夜11時ころ撮影したのが次の写真です。柿は,LEDのヘッドランプを地面に向けて当てて,間接的に明るくしています。枝がよくせり出してくれているものでした。
7時過ぎになると,駐車場には私の車1台だけになりました(いつも)。ここから700mほどのところに西湖畔に降りられる場所があり,そこから撮影したのが次の写真です。
この場所も,明るいうちにロケハンしました。その時は数名の人が富士山をバックに記念写真を撮っていましたが,夜中は誰もいません。道路から,湖の岸まで100mくらいはあるのでほんとに真っ暗です。この日は風が穏やかで波もなく,なにも見えない湖面で魚がぽしゃんと跳ねたりすると,知らない生物が突如現れたりしないかと想像したりしてちょっと怖かったです。よく考えると,三脚の高さをもっと低くしたローアングルで撮れば,湖面にオリオンも写ったはずです。星景写真をあまり撮りなれていないので失敗(教訓)でした。駐車場からここまで,歩いても行けるのですが面倒なので車で移動しました。駐車場には20㎝の反射赤道儀をセットして撮影したままです。ちょっと考えると心配ですが,もう何回も来ていて絶対に他には誰も来ないと確信できるからです。
これがそのとき放置撮影していたきりん座の銀河IC342です。きりん座は聞きなれないとおもいますが,秋の北の空ペルセウス座と北極星の間に位置する星座です。ご覧のようにフェイスオンと言って円盤を真上から見た状態で視直径が20'もある大きな銀河です。しかし,銀河の光がとても淡く2時間以上の露出でやっとあぶり出てくるのであまり知られていません。また,まわりにうるさいほど星が多くありにぎやかで,なぜか色が飴色というか変わった特徴があります。ふつう銀河は,私たちの銀河系の円盤の中からは星の密集した円盤方向には見通すことが出来ず,円盤の上下方向の春のおとめ座や秋の南の空が見やすいのです。きりん座は銀河の円盤方向に近い星や星間物質が多い方向にあるため,光が淡くまた色が赤っぽくなっているのだそうです。昨年もこの時期に撮影したのですが,ガイドがうまくできず,原因は鏡筒のバランスが悪かった(カメラが重く)ためと分かり,バランスウェイトを付けてリベンジできたと思います。
次に,おうし座の超新星残骸M1(かに星雲)を撮りました。20㎝の反射を導入して2回目なのですが,このような輝線をだす星雲はナローバンドフィルターが良いと考えて去年は,IDASのNB1フィルターで撮ったのですが,あまりに網々した画像だったので,今回はHEUIB-Ⅱという反射星雲などにも効果があるフィルターで撮影し,両者をブレンド(合成してみたところ)よく見る「かに星雲」の写真と同じ雰囲気にできたと思います。
最後は,もう春の星座になるおおぐま座の惑星状星雲M97(フクロウ星雲)を撮りました。上のIC342銀河と同じ画角の写真ですが,星の数が全く違うことが分かります。よく見ると,小さな銀河がたくさん写っています(アノテーション画像が開きます)。ガイドでのバランスの問題も解決できたようで,放置撮影が安心してできると,車のエンジンを止めた状態でもポータブルバッテリーで電気毛布にくるまれば結構寝られます。4時過ぎまで寝過ごして,外に出ると撮影は終わっていてオリオンはもう西に傾いていました。紅葉の山といっしょに撮影してみたら,ラッキーなことに流星が出て写っていました。この画角だと流星はなかなか入らないものですが,15秒を3枚を適当に撮ったら写るのかなり稀な確率だと思います。めずらしく天体写真の神様が微笑んでくれたように思いました。
次の20㎝での撮影は来年の春にしようと思います。12月は,屈折でオリオンまわりの星雲群を撮るのが楽しみです。今回はマイナス2度まで気温が下がりました。厳冬期には近くの民宿に泊まって体に負担をなくするのがいいかもしれません。そうそう,調べたら河口湖インター近くに朝6時から営業している立ち寄り温泉があり,今回利用してきました。コロナの時期はなかったので,フィールドワーカーにはうれしい施設です。あまり無理をしないという言う意味での経験値が少し上げられたように感じ,穏やかな移動性高気圧の天気の平日に休みが取れてとても恵まれた(乾燥していて露つかずの)今回の遠征でした。ありがとう。