朝霧高原遠征

富士山と夏の天の川
2024年3月15日,03h45m
FujifilmXE-1,銘匠光学TTARTISAN10mmF2.0(2.8)
ISO2500,30秒,スターエンハンサーフィルター

私立学校の非常勤講師なので,今週から約1か月の春休みに入りました(非常勤だと年間に出勤するのは約30週ぐらいです)。平日ですが,12Pポンス・ブルックス彗星が西の空で明かるなりつつある,というので富士山の西麓で天体写真撮影場所のメッカともいえる朝霧高原へ出かけました。いつもの西湖いやしの里駐車場では西に山があって地平線近くの彗星を狙うには不都合なので,ただし朝霧アリーナ駐車場(そのメッカ)は,同業者がいそうで(一人が好きな私は)そこを避け,グーグルストリートビューで探した牧草地の農道のわき,にしました。しかし,到着してみると,毛無山という御坂山塊の山が予想外に迫っていて彗星がすぐ沈んでしまいそうでした。そこで,すこし南へ下ったアリーナ駐車場なら大丈夫かと移動すると,案の定すでに(4時半ごろ)5人くらいがすごい機材をセットして数名がにこやかに談笑しているのが見えました。ここには駐車スペースが上と下の二か所あって,メインは下なのでここを避け上に行ってみると,天文関係者はいないようで,視界も確認してこちらにセットすることにしました。

彗星をとらえるのは,日没後30分から7時30分ごろまでが勝負とあって,明るいうちから赤道儀を組み立て,極軸合わせも早めにしなくてはならず,スマホのマップ機能で北の方向を確認したり,コンビニ弁当をかけこんだり,いつもより緊張感がありました。暗くなり始めたころ,北と思われる方向にセットした極軸望遠鏡をのぞくと,ばっちり北極星が見えたので極軸も合わせ,電源を入れ,タブレットアプリのWi-FiをASIAIR(マイコンの撮影ギア)につなげたのですが‥‥。アプリからカメラや望遠鏡を制御する命令をタップすると,Wi-Fiが切れて,動かなくなる。というトラブルが発生。以前にも経験したことがあるのですが,焦りました。2台持っているCMOSカメラの2600MCPにだけ現れる症状でバグかもしれないのですが,冷却用の給電ケーブルをつなげていないと生じることをずっと前から経験して知っているはずなのに,なぜか頭が白くなったというか,別の原因かと思って(思い出すことができない状態に陥って)しまったのです。2台あるASIAIRを取り替えたり,電源回りを確認したり赤道儀などの電源を入れなおしたり,何度やっても結局解決できずやがてポンス・ブルックス彗星がほぼ沈んでしまい撮影はできませんでした。思いついたのは,ここは同業者が大勢いるためにおそらくASIAIRを複数の人が使っているためにWi-Fiが干渉してこんなことになっている,というこれまた思い込みでした。この後の撮影も,これではできないので,人間というのはほんとにこういうフールプルーフに会うとどうしょうもないもので,一旦片付け,場所を移動することにしました。翌朝家に帰ってきてトラブルが再現されるか試してみて,経験済み原因(冷却ケーブル接続なし)を再確認したわけですが,うまくいかないと人のせいにするような傾向も人間のしょうもないところですね。

というわけで,当初予定の農道脇に移動して,星景写真用に新たに購入した10㎜の広角レンズを試したり20㎝反射で春の銀河撮影をしてきました。天気予報では風は無風に近いはずでしたが,吹きさらしの場所なので,10時くらいから2~3mの風が出てきて,直焦点撮影もボツになりそうな気配でしたが薄明開始まで頑張りました。かなり落ち込んだのですが,帰ってから画像処理してみると何とかなり,パニックの経験も無駄ではなかったと思うようになりました。

球状星団M5
2024年3月14日03h20m~,20㎝F4.5ニュートン反射
ASI533MCP(Gain100 -20℃)5分8枚
BXT,GraXpertなどで画像処理
同左,撮影した8枚の1枚画像処理前
左上に人工衛星が通過
風で鏡筒がブレているのが分かる

これが最後に撮影したへび座の球状星団M5です。有名なM13 に劣らず大きく明るいので,今回撮影の目玉的だったのですが,撮影時は右のような風でブレブレの像で,これはダメだと思いました。偶然人工衛星が横切ったのをみればよくわかりますが,鏡筒がふらふら揺らいでいるのが一目瞭然です。しかし気を取り直してコンポジット画像に革命ともいうべきBlueXTerminatorをかけて見ると,左のようになりました。誰が見ても信じられないのではないかと思うくらいです。風がなければもっとすごくなりそうです。

電波源ケンタウルス座A(NGC5128)
撮影データは,M5と同じ,5分16枚

これも南が開けたところでないと撮れないので,今回撮影の目玉としたケンタウルス座Aという銀河ですが,よく教科書などに様々な天体の例として出ている電波銀河と呼ばれるものです。これも風がなければもっとシャープか,南に低いので大気の影響があるのかわかりませんが,授業でも使えるなと思っています。

沈みゆく冬の星々
FujifilmXE-1,銘匠光学TTARTISAN10mmF2.0(F2.8)
ISO2500,30秒,サイトロンスターエンハンサーフィルター

星景写真も(冒頭の天の川)新しいレンズで試してみました。国産のメーカー製に比べる1/5くらいの値段ですが,まあ星空の雰囲気が出る写真を撮る分には十分ではないでしょうか。今後も景色や露出やISOを変えてうまく撮れるように試そうと思います。今回ポンス・ブルックス彗星の失敗は残念でしたが,こういうパニック傾向での思い込みのどうしょうもなさは時々経験しています。頭が固いというか,でもその場になってみると人間そういうもんだなーと言える気もします。危機管理上肝に銘じておくべきでしょうが,こんな歳になっても回避できないのですから,あきらめて過ごしていくしかありません。変な割り切り方ですが,それが経験を積むということだと思うしかないかなと。そのわりに銀河と星景写真はまあ上出来だったと思う今回の遠征でした。