進化する天体写真術(画像処理,光害カットフィルター他)

私の天体写真は,多くの方々の見よう見まねでやっているので,ちょっとおこがましい気のするテーマですが,最近の活動を紹介してみようと思います。それにしても,世の中便利になったものだと思います。人に聞けないような疑問は,親しい友人に聞いたりしたものでしたが最近はちょっと分からないことで困ったら気軽にネットで検索すれば,たいていの答えは見つけられますし,なにか便利なもの(本や小物,機材)が欲しくなったら,朝Amazonでポチると夕方には手元に届くという。天体写真もこれらの恩恵の一部のような気がします。ソフトやアプリもネットからダウンロードして即試すことが出来ますし,不具合があればそれも検索すると解決出来,ファームウエアの更新なども,勝手にしてくれるようになりました。ここ数年,画像処理ソフトや機材の進展が著しい気がするので,最近の経験をまとめてみようと思います。

まず,画像処理ですが,すでに紹介しているように,現在の天体写真画像処理ソフトの王道はPixInsightと言って良いでしょう(フリーのSirilを使う方も増えているようですが)。仕上げにはPhotoshopも使いますが,これらのソフトに付随して利用できるプラグインやユーティリティーといった拡張プロセスがAI仕様でどんどん進化しているのです。ノイズをなくすDeNoiseAI,光学収差やガイドエラーまで補正してくれるBlueXTerminator(BXT),星と星雲を分離するStarNetやStarXTerminator,中でもこの一週間で使い始めた光害カブリをなくすGraXpertは,都会撮影でのまさに革命だと思いました。天体写真での淡い対象をあぶりだすことをストレッチといいます。バックグラウンドの夜空と天体とのわずかな光量の差を押し広げて際立てる,という意味です。しかし,画面上のバックグラウンド自体に差が生じている(光害によるカブリがある)と,ストレッチによって対象といっしょにカブリも強調されある段階でストレッチが破綻してしまうのです。これを防ぐためには事前のカブリ除去処理が必要です。PixInsightのプロセスにあるABE(AutomaticBackgroundExtractor)なども強力でしたが,GraXpertはそれをより凌ぐものでした。次は,自宅ベランダからワンショットナローバンドフィルターで撮影したカモメ星雲ですが,今までと比較して格段にストレッチが効いていることを見てください。

カブリ処理前の画像。バックの空に光害によるムラがある。
左はPixInsightのABEによるカブリ処理。右がGraXpertによるフラット化。どう見てもGraXpertが優れている。
PixInsightのプロセスABEでカブリ除去でストレッチしたもの,左側にカブリが残っていたのでトリミングしています。
GraXpartによるカブリ処理にストレッチ

この撮影では,CMOSカメラのビニングを2×にして,感度を上げています。ビニングを2×にするというのは4つのピクセルをまとめて画素数を減らし,その分ピクセル1個の光量が増えるので感度が上がります。私の持っているワンショットナローバンドフィルターはSVBonyのSV220という廉価な製品です。ナローでは散光星雲や惑星状星雲の出す波長を選択的に透過するのですが,光害を除去する分,星などの光の量は減るので露出時間がかかります。いままで3時間以上撮影しても,結局カブリがでて思うような出来にはならなかったのですが,この撮影は90分露出ですが,結構見栄がすると思います。実は,カブリが目立たない方法はもう一つあって,焦点距離の長い視野の狭い撮像でいわばトリミングするような感じでしょうか。例は私の天体写真ギャラリーのトールの兜星雲や,はくちょう座のクレッセント星雲で,これは自宅光害地からの20㎝のニュートン反射(焦点距離908㎜)でのワンショットナロー撮影によるものです。自宅撮影で感度を上げるためにビニングを落とす(2×)ということに気づいたのも,撮影機材の進化によるものでした。何かというと,撮影用の小型パソコンといえるASIAIR(オートガイドガイド撮影にはパソコンが必要ですが,自動導入その他の機能をソフトごと一体化したZWO社製のギア)のバージョンアップでプラン撮影の拡張機能のモザイク撮影(複数の画角をつなげて広角撮影する)がとても簡単にできるということをネットの天文リフレクションズの動画で知りました。

ASIAIRのモザイク撮影機能→天文リフレクションズのYoutube動画から

アプリのバージョンアップでどんどん便利になっているので,これをはじめて1月の遠征で試したところ,画素数が面積倍の膨大な容量の画像データになってしまうことに気づきました。

モザイク合成の処理にはこれまた優れもののAPP(AstoroPixelProcessor)というソフト(天文ガイド2021年11月号に西条さんの紹介記事があります)を使いますが,冒頭写真のオリオン周辺を12枚のモザイク合成したところ,なんと5時間以上かかり,これではたまらないと思いました。同様に撮影にかかる露出時間も1枚20分でしたが,合計で4時間かかっています。この経験でああ,それなら,ビニングを落とせば良いのか,ということに気づいたのです。このように,感度を上げることと,カブリ処理がうまくできることが分かったので,光害下では到底無理そうに思っていた南の低空で淡い天体のミルクポット星雲を2晩かけて撮影してみました。

自宅ベランダから撮影した,おおいぬ座Sh2-308(ミルクポット星雲:下)と散光星雲Sh2-303:上
2024年1月24,26日合計露出時間7時間15分,AskerFRA400,ASI2600MCP,Bin2×GAIN100,-20℃。

やはり,まだ暗い空での撮影には及ばないようですが,いろいろチャレンジしてみるのは楽しい経験でもあります。今後はまだ試していない,銀河の撮影向きに出されているDTDフィルター(購入済み)での自宅からの撮影や,遠征ではモザイクによる広角の天の川天体の網羅などに挑戦してみたいと考えています。

天体写真

前の記事

西湖遠征
天体写真

次の記事

朝霧高原遠征