「歴史のなかの大地動乱」岩波新書、保立道久著

 3.11(東北日本太平洋沖地震)のあとに出版された地震に関する本で、不覚にも見逃していました。保立さんは純然たる歴史学者であったために、この本に気が付かなかったのだとしても、奈良時代、平安時代の地震について、これほど緻密な考察をすでにされていたことに驚いています。というのも、3.11は歴史上869年の貞観地震の再来と考えられ、ようやく科学者もその事実(平安時代に内陸深くまで津波が及んでいたこと)に気がついていた矢先のことだったわけで、その事実を歴史書から最初に掘り起こしたのが保立さんだったのです。

歴史地震学という分野もあり、日本被害地震総覧(宇佐美 龍夫)などの資料も整理されています。以前から、なぜか9世紀には地震が頻発していたという理由に、当時三代実録などの六国史(古事記など)が特に整えられたためだという解釈もなされましたが、この本は伊豆諸島神津島などの火山噴火も同時多発的に起こったことまでも、当時の災害と天皇王権の定着との関係など実に興味深い内容を含んでいます。火山噴火は歴史文献だけでなく火山灰地質の研究から明らかになるので、明らかに9世紀の噴火と地震は連動しており、中央政権の情報量が優れていただけでは説明が付きません。なにより、貞観地震の9年後に南関東で、その11年後に南海トラフの巨大地震が発生していることは、現在とそのまま比較できないとしても、誰もが今後の日本の行く末に不安を抱かざるを得ない厳然たる事実といえます。熊本で、大阪で、北海道で、おそらく誰もが、自分のところは大丈夫だろうという漫然とした気持ちでいたのだと思いますが、ここまでくれば、いつ来てもおかしくないと心するべきだと歴史を振り返る意味を感じさせてくれる一冊です。補足的に言えば、歴史地震考古学の寒川さんも及ばない内容を含んでいます。

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