光害下(都会)での天体写真

郊外で5等星が見える空には1000個以上の星が見えるのに,都会では,よく晴れて透明度が良い空でも2等星がやっと,10数個見えるくらいです。それでも,夜空は暗く,天体の光も弱いので,普通カメラを夜空に向けてシャッターを切ってもなにも写りません。そこで,シャッターを開けたまま(バルブ撮影といいます)数十秒~数分も露出するのが天体写真の常識です。ただし,都会でこれをやると,30秒もすれば,画面は真っ白になってしまいます。これを「カブリ」などと呼んでいます。空が地上の人工光に照らされて,明るくなっているからです。つまり,宇宙から来る星の光も,この明るいバックグラウンドにかき消されてしまっているわけです。これを「光害」と呼んでいます。

なので,天文マニアはせっせと郊外へ「遠征」して写真を撮ったり(私も)しているわけですが,以前から,光害カットフィルターというものがあって,光害のものとになる水銀灯(蛍光灯)やナトリウムランプ,などの特定の波長の光をカットして,バックの星や天体の光を際立たせてくれるアイテムです。これで都会でもある程度天体写真を写すことは可能で,私も自宅のベランダからいろいろ試しました。とは言え,人工の光を完全に無くすことはできないので露出時間を長くはできず,10~20秒程度の露出で100枚以上撮って画像を合算(コンポジットとかスタックと呼ばれる)する必要がありました。何度試しても,馬頭星雲などの淡い星雲は,ようやく形が分かる程度で,空の暗いところでも60分くらい露出が必要ですから,鑑賞に堪えるものは相当な枚数を稼ぐ(250枚とかで数時間におよぶ)必要があるようです。ところが,光害の質が以前と変わって,どの波長もまんべんなく含む,LED電球の普及によって,最近では,天体のもつ特定の波長だけを透過させる光害カットフィルター,ナローバンド(狭い波長帯の意味)フィルターが登場してきました。普通の光(太陽や星)は,連続スペクトルといって虹の七色の波長を含んでいるわけで,ナローバンドは,星がつくられる星雲や超新星の残骸など,輝線とよばれる特定の波長の光だけを透過するので,それ以外の余計な光をほとんど通さず,より強力な光害カット効果があります。星雲特有の水素ガスの出す赤い波長のナローバンド光害カットフィルター(IDAS NB-1)を一昨年に買って,比較的露出時間も長くしてトライしてみています。そして,最近導入した,冷却CMOSカメラの威力と,オートガイドギア(ASIAIR)で自宅ベランダ放置撮影(撮影が終わるとシャットダウンして電源がオフになる)が可能になったので,2~3時間露出を(寝てしまって朝起きるだけ)試してみました。

わし星雲(IC2177) 2020年12月25日21:23~
3min×74(3時間42分)ED75HF(D75mmfl371mm)
ASI2600MCPro GAIN0 -20℃
Pixinsight,PSで処理
オリオン座下部 2021年1月9日
3min×50(2時間30分),AskarACL200(F4,200mm)
ASI2600MCPro GAIN0 -20℃
NB-1フィルター,自宅ベランダにて,

このように,2~3時間の露出でようやく天体写真らしくなるのですが,やはり郊外に遠征して撮影すれば,1時間くらいでもっと詳細なディテールが表現できると思うと,ひと月に一回の新月期がやってくると,芭蕉ではありませんが,片雲の風に誘われて暗い星空のもとへ出かけたくなってくるのです。