高知旅行

高知市の桂浜

7月27日から2泊3日で高知県に行ってきました。今年のNHK朝ドラ「らんまん」のモデルとなっている牧野富太郎博士の故郷として話題になっていますし,出身地の佐川町はかつてナウマンが訪れ,日本の地質学上(佐川造山運動という用語の発祥の地でとして)重要な場所でもあります。また,家人が是非仁淀川の清流を見てみたいというので,猛暑を覚悟ででかけてきました。

  • 1日目 高知竜馬空港 (レンタカー)→ 室戸岬(室戸ジオパークセンター) → 南国市旧国府(紀貫之邸跡) → 高知市内ホテル
  • 2日目 高知市内 → 仁淀川上流,安居渓谷 → 仁淀川越智川原(バーベキュー) → 横倉山自然の森博物館 → 佐川地質館 → 佐川ナウマンカルスト → 市内ホテル
  • 3日目 ホテル → 桂浜 → 高知城 → 県立牧野植物園 → 高知竜馬空港(帰途) 

高知県の地質といえば,「付加体」という業界用語が生まれた場所,ということになるのですが,この説明は長くなります(平朝彦著「日本列島の誕生」岩波新書1990年)。地球科学の革命といえばプレートテクトニクスですが,70年代から地震や火山活動,大山脈の形成といった現象がこれで一気に説明できたわけですが,長い間日本の地質学者はその前提なしに各地の地質(岩石や化石の調査研究から)を記載してその生い立ちを組み立ててきたわけです。

             室戸ジオパークセンターの付加体を説明する模型

これが付加体のでき方を説明する模型装置で,四国太平洋沖のフィリピン海プレートの沈み込みよって,海底の堆積物が陸側(四国)に地層となって付け加わっていく様子をしめしています。付加体の特徴は,新しい地層が下のほうにあることで,長年このような理屈が分からないままに地層の層序や編年が定まらなかったため,90年代になってようやくプレート沈み込みと地層・地質の関係として注目されたのが四国の四万十層群だったのです。 → 参考「日本列島の生い立ち」実習

室戸岬のタービダイド層
タービダイドを構成する泥(黒)と砂(白い部分)

室戸岬周辺では,付加体地質と言われる地層が観察できます。陸側の海底斜面で発生した乱泥流(海底地すべり)によって海洋プレート側に落ちた堆積物が幾層にもなっているのがタービダイドで,上の写真は最近の地学の教科書で定番になっている室戸岬のそれです。海洋プレートには,そのほかに海山(海底火山噴火)とサンゴ礁(石灰岩)やチャート(放散虫の死骸)など様々の堆積物があるのですが,今回は日沖海岸の枕状溶岩(玄武岩)を見ることが出来ました。

日沖海岸の枕状溶岩

芸西村付近には,付加体地質の見本のような場所もあったのですが,時間も押していたのでスルーしました。また,室戸岬周辺のスカイラインは,南海トラフ地震が繰り返し起こるたびに隆起してできた12万年前の海成段丘を望むことが出来ます。

2日目は,仁淀川ブルーと呼ばれる清流がみられる安居渓谷へ分け入ってみました。高知市内からレンタカーで1時間30分ほどとはいえ,かなりの山の中です。夏休みに入ってもっと大勢の観光客が押し寄せてるのかもと思っていたのですが,まあ午前中でもあり数グループに出会うくらいでした。室戸岬も,よく考えると最果ての地でもあり,知ってはいてもなかなか訪れる人は少ないという(世界ジオパークといってもなかなかポピュラーになりえない)ことを感じました。ここの岩石は三波川変成帯の結晶片岩です。

仁淀川上流安居渓谷
水晶渕の仁淀ブルー

仁淀川の中流域は,どこでも誰でも川遊びが出来そうな場所がたくさんありました。都会(首都圏とか)に近かったら人でいっぱいになりそうなところでしたが余裕でBBQをしてきました。水もきれいで冷たくて,ほんとに良いところでした。

牧野富太郎博士が通って高知のフロラや新種をいくつか発見した横倉山は,黒瀬川構造帯という日本列島でも最も古い岩石や化石が含まれる地質帯に位置し,植物だけでなく地質学的な宝庫のような場所で,ここに博物館があり,岩石や化石の写真を撮れてよかったと思います。家族旅行で露頭を探すのはちょっと無理ですね。

シルル紀の変成岩,かつての古い大陸の断片と考えられる岩石
シルル紀(4億年前)の花崗岩など,めったに見られないものです。
シルル紀の化石(クサリサンゴ,ハチノスサンゴなど)は日本で最も古い生物の化石

佐川町の佐川地質館を見学しました。ここには明治時代にナウマンが訪れたことが紹介され,黒瀬川構造帯の特徴である鳥の巣石灰岩やモノチスの化石を見ることが出来ました。ナウマンはここの地質が独特なものであることを見抜き,右の額縁にあるような詩を読んだと言います。緑なす山々 国原は 大海の中に安らい 奇しき動物の 海底に沈めるもの 再び輝かしい日の光の下に 持ち出され 人類はここに定住する 誰が知るこの詩の結論を(桜井国隆訳)

中生代トリアス紀(三畳紀)の示準化石,モノチスの化石
佐川地質館ではイベントとしてモノチスの化石体験発掘会が行われていて,そのずり山で拾った化石の断片です。
車で7,8分離れたところにある佐川ナウマンカルスト。カルスト地形を身近にみられます。

モノチスも黒瀬川構造帯を特徴づける化石で,秩父帯や丹波美濃帯の形成年代とは異なります。佐川ナウマンカルストも訪れる人が少なそうでしたが貴重な場所です。よく整備されているのですが,暑いので登り下りせず,写真だけとってきました。この石灰岩は鳥の巣型石灰岩で,ナウマンがこれまた名付けたものです。ジュラ紀の石灰岩で付加体として当時あった浅海性の堆積物からできたものです。鳥の巣型石灰岩は,東京の五日市でも見ることが出来ます → 黒瀬川構造帯にふれる をぜひご覧ください。地質学の難問と言われていた黒瀬川構造帯は,ここ四国が発祥ですが,それが東京でも見られるというのは,なんともロマンなのです。中央構造線,三波川帯,秩父帯,四万十帯(高尾山あたり)を9月の授業で教えるのに力が入ります。

四国は,なかなか遠いので行く機会をつくってよかったと思います。地質学的な核心部は高知や西予(ジオパーク)にもいろいろあるのですが,2泊では周りきれませんでした。2晩ともはりまや橋近くのアーケード街で夕食を楽しみました。地方都市はどこもいいですね。3日目は高知城,お昼をひろめ市場で食べ,午後は牧野植物園を見学して帰りの飛行機に乗り込みました。