分水嶺の謎 ~峠は海から生まれた~

以前から地質学とプレートの運動を結び付けて学説を発表している高橋雅紀さん(ブラタモリでも有名)が,突然地形に目覚めたようです。先月アマゾンのあなたにおすすめ本で知ったのですが。ちょっと値が張るので躊躇していました。先週神保町の書泉グランデによったら,うず高く積まれていたので中身を確認し購入して読んでみました。これは,ひょっとしてまた新たな地球科学の学説となるやもしれません。タイトルがなぜ「分水嶺」なのか,地質プロパーの高橋さんがなぜ?とまずなりました。その辺は,読者の疑問に答える形で前書き(はじめに)に書いてあり,コロナで家にこもって地形図を見ているうちにまさに「地形沼」にはまったのだそうです。注目するのは平地にある「谷中(こくちゅう)分水嶺」。はじめて聞き,つい「やなか」分水嶺と読んでしまいました。そして,川が川を横取りする「河川争奪」。この不思議な地形をめぐって中国山地に分け入って(ネット上の地理院地図を駆使して分水嶺の)エア旅をしていきます。地図や地形好きの人は読みながら自分のパソコンでも地理院地図をたどる方が楽しいと思います。

この地形の謎解きは,4分の3ほど読み進んでからの第2章(第1章の分水嶺の旅が長いのですが)からになりますが,今までの常識があきらかに覆る話で,陸地のある山はかつての海に浮かぶ島であったことがあり,内陸の谷間は川ではなく,海の浸食作用で削られたことがあったというのです(もちろん現在は川がながれていますが)。こんなことは,今の中学や高校の地理や地学の教科書にもまったく書かれていないことですが,エア旅で地形(分水嶺)を見る目が出来ていれば,なるほどと思うでしょう。ただし,地学的な知識としてある程度の地質学的時間感覚と氷河時代の海面変動(気候変動)や地殻変動(隆起速度)について理解する必要があります。

私の住む,東京近郊の丘陵台地でも同じような地形を目にすることはあって,前からこの谷が川で削られてできるなんて変だなと思っていた場所があるので(ローカルですがJR南武線の久地駅と津田山駅の間)まさに目から鱗と言っていいでしょう。長年地学を専門に教えてきた身として,このことに今まで気が付かなかった理由を考えてみると,平野や河岸段丘のような地形ができる時間(1~10万年程度)と,土地が隆起して山になり浸食された地形になる時間(大体100万年かそれ以上)との間のころの地表の様子について,あまり研究して来なかったからではないかと思いました。高橋さんはすでに,日本列島を山国に変えた隆起運動がフィリピン海プレートの運動方向の変化によるものだ,という新説を提唱されてNHKのジオジャパンなどでも紹介されていますが,これも新たな新説ですからさらなる注目と今後の展開に目が離せません。全編大きめのカラー図版が欠かせないのでやや高価で分厚いのですが,日本列島の生い立ちの研究に新たなページが加わる現場に立ち会えるかもしれないと思うので,地形や地学ファンにはおすすめしたい一冊です。

高橋さんのホームページは→こちら