佐藤文隆先生の量子論
まだよく理解できているとは言えませんが、この本は今後名著といわれそうな気がしています。現代物理学の基礎概念であると同時に難解な「量子力学」。佐藤文隆という、京都大学の相対論・宇宙論の大御所的存在が量子力学を一般向けに解説している本。実は、一般向けの(新書で)宇宙論や量子力学の本をいくつも読んでいますが、量子力学だけはその結論が常識に合わないだけに数学的(数式をつかった)理解ができないかぎり納得のいく説明に出会ったことがありません(数式の理解には歯が立ちません)。そこで、もし量子力学を鵜呑みにするなら、世界はパラレルワールドであるとか、テレポーテーション(瞬間移動)が可能であるとか、存在は確率的である、というような荒唐無稽なほら話のようなことを信じることになるのです。
もちろんミクロの世界でのことと、断りがありますが、専門の物理学者すらなぜそうなのかを納得していない、とこの本にも書かれています。では、そのような現象は本当なのか。この本は、近年になって行われた量子力学の不思議さを実証した実験に多くの説明が割かれているのが特徴です。詳しい内容は書ききれませんが、簡単に言うと、「私たちが見る前から決まっていたかのようなことが、見ることによって決定されるような振る舞いが実在する」。ということかと思います。とくに、このような考えについてホイーラーという物理学者の見解を引き合いにしています。ホイーラーはブラックホールの名付け親でもある物理学者です。
ホイーラーの驚くべき結論は、It from bit(すべては情報)という、これまた理解に苦しむものですが、いずれにしても、観測する私たちの参加によって現実がたちあらわれてくる、という観測問題の理解が大事だということだと思います。言い換えると人間というものがこの宇宙でかなり特殊な存在(我々の認識や常識は特異)であるということだと、あまり自信はありませんが思います。
こういったことに、興味がある方にはお勧めの本です。