宇宙はなぜ美しいのか 村山斉著 と 早すぎた男南部陽一郎物語 中島彰著 

 思えば,2008年のノーベル物理学賞で,小林,益川,南部の三人が受賞したとき,受賞理由となった発見の意味が全く理解できませんでした。いずれも対称性の破れ,という文言が含まれているのですが,それまでの新しい素粒子の発見や小柴さんのニュートリノの検出に成功した,といった具体的な物理現象でなく,ほとんど聞いたことがない対称性というものが何なのか知らなかったですし,なにがすごい業績なのか理解できそうにありませんでした。それでは理科教師がつとまらないと(まじめですね)思い,いろいろ調べて出会ったのが村山さんの講演「消えた反物質の謎」2009年10月(於:慶応大学来往舎)でした。本当に素人向けに面白いスライドをつくって,小林・益川のCP対称性の破れが,筑波のBファクトリーの実験で証明されたと言うことなどを知りました。そういえば,トップクォークの発見以後,もう加速器で何も発見するものはなくなっていたのか,と漠然と思っていたので,なるほどと目から鱗でした。
 IPMUという存在もそのとき知り,以来一般むけの講演会や柏キャンパス(IPMUと宇宙線研究所)の一般公開に出かけたりして,素粒子物理学や宇宙論の進展をなるべく授業でも教えられるように勉強するようになりましたが,それには村山先生の啓蒙活動(メディアへの出演や「宇宙は何でできているのか」新書など)がまさに時を同じくして,ラッキーだったように思います(現IPMU機構長の大栗博司先生も大きいですが) 。
 そして,今回の著書ですが,カラー版になっていて,前半はハッブル宇宙望遠鏡の文字通り美しい天体写真と,それにまつわる天文学的な理解について,中頃からは,物理現象の理論の美しさ,特に対称性と保存則の説明(ネーターの定理がよく分かった),そして村山先生が,最近の発表された超対称性をつかった研究論文のこともふくめ,インフレーション宇宙の説明まで。とても,わかりやすく文字どおり宇宙の美しさを感じられます。中学生ぐらいにこの本に出会えると,きっと物理や天文に興味が出て,将来研究者にあこがれる人が出てくるように思いました。それと,あとがきにありますが,この10年間に著名な物理学研究者(ワインバーグやホーキング,日本の益川さんや南部さんなど)がこの世を去り,彼らのまいた種が土台となって大きな物理学の木に生長した観があります。南部さんが,世界の研究者が認める天才だという話はあまり日本人に知られていないとおもいますが,これも10月のおわりに出版された,中島彰さんの「南部陽一郎物語」(ブルーバックス)で読んで,これまた眼からウロコだったことを付け加えておきます。