東京近郊での地質や岩石の観察について

地学の教員に成り立ての頃は(専門が気候だったので)岩石や化石標本の収集とか,露頭の観察の経験を深めようと,それぞれ各県について観察ポイントの解説がある,築地書館の「日曜日の地学」やコロナ社の「地学ガイド」を片手に,まさに日曜に出かけたこともありました。これらの本が出版されたのは今調べても,ほとんど70~80年代で,90年代後半には観察ポイントに出かけても目的の崖(露頭)を見ることが,ほとんどできなくなっていました。理由は開発です。本来崖には家は建ちませんが,その頃,斜面型のマンションが次々に建てられて,本に載っていた観察ポイントがどんどん無くなっていたのを覚えています。その後は,日本地理学会および第四紀学会と東京地学協会に所属していたので,催される巡検,さらに地質学会のアウトリーチ巡検などで研鑽させてもらいました。貴重な露頭は,保全されているというより,専門の研究者のフィールワークによって知る人ぞ知るように発見された場所か,もともと公共の(公園や天然記念物に指定)場所に限られてしまっています。あとは工事現場ですが,情報を得たらせいぜい写真を撮っておくだけで,2週間たてば無くなってしまいます。中学校の理科の教科書には,「地層を観察してみよう」などと学校の近くで崖を観察している図が掲載されていたりしますが,大都市圏の学校でそのような観察が可能かと首をかしげざるをえません(校庭の端にそんな崖がある場合も無いとは言いませんが)。そういった状況で,学校で地質や化石などを実地に観察したりする活動は,熱心な地学プロパーの先生がいて,クラブ活動で休日などに,理科の観察会として有志参加で,学年の校外授業(遠足)の一部として,行われるかどうかだと思います。なかには地学だけの実地観察として1学年をバスで秩父長瀞に連れ出して,岩石や化石,地質の学習をさせるといったところもあります(非常勤講師で経験)。現在教えている学校では,幸いキャンパスが下末吉台地上にあり,地学の授業1時間をつかって,崖下の露頭(関東ローム層と上総層群)と地形の観察(ミニ巡検)を行っています。

そういった,野外の大勢が観察可能な岩石や地質構造がある場所(東京近郊)は,三浦半島の城ヶ島とやや遠いですが,秩父の長瀞,ではないでしょうか。今まで訪れた経験からおおまかな観察例の写真を載せます。写真をクリックするとスライドショーでご覧いただけます。

城ヶ島は,島の周遊コースを設定できると思います。長瀞は石畳から博物館までのコースと秩父周辺のようばけと取方,大野原での化石採取あるいは秩父市内の河岸段丘なども含めると,とても充実した地学巡検が可能な地域だと思います。城ヶ島は,クラブ活動や有志参加の見学会,荒崎での生物観察などを絡めることもできるでしょう。秩父長瀞は広さから言っても,1学年単位で地学実習が可能な唯一の場所のような気がします。

さらに,個人的な視点ですが,日本列島の形成過程を地質学的に俯瞰したときに長瀞の三波川変成岩は,三波川変成帯と領家帯という代表的な地質構造で,武甲山をつくる秩父セメントの石灰岩ブロックを含む秩父帯もふくめて四国まで続く地帯構造をなしており,プレートの沈み込みによる付加体として形成されたことを実感することもできると思っています。ブラタモリの秩父編で紹介された,秩父札所28番の橋立堂の石灰岩と玄武岩ブロック,チャートなど,あるいは皆野町の栗谷瀬橋の河床にみられる蛇紋岩体,五日市深沢地区の南沢の鳥の巣型石灰岩なども,同じような特質すべき地質で,東京近郊に見られるジオポイントとして紹介しておきたいと思います。

これらの岩石や地質を見る目は,一朝一夕に醸成されるものではありませんが,70年代や80年代の知見と比較して理解が進み,新しい日本列島形成過程を証拠立てる要素(大陸縁での付加体として成長,大陸から分離,日本海とフィリピン海プレートの形成,伊豆弧の衝突など)を含んでいて,これも個人的には高校生くらいであれば,理解可能な内容として広く紹介して行くべきでないかと思っています→ 日本列島の生い立ち実習用白地図

振り返ってみると,多摩ニュータウンにできた新設高校の地学(必修科目)で,目の前に多摩丘陵があり,関東ローム層(東京パミス)や上総層群の化石が採れ,大学では地形学実習が三浦半島の海成段丘地形とテフラによる編年といった,相当に恵まれた地学教育を受けてきたと思います。最近ではブラタモリによって,私が受けたレベルの地学的内容がタモリ氏のおかげでバラエティー番組で紹介されるようになり,地質学とプレート運動のつながりについては産総研の高橋雅紀さんの手ほどきで,ここまでこれたと思っています。子供たちに人気の化石採取などもオープンにできる場所があり,秩父盆地は東京に近いジオパークとしてもとても貴重だと思います。

東京近郊での地質や岩石の観察について” に対して2件のコメントがあります。

  1. 花田健之 より:

    「巡検」て、大学の天文同好会で地学科の先輩が時々言ってたなぁ。なんだか楽しそうな言葉だとその時から思ってました。
    ブラタモリで色々な露頭や岩石を見せてくれるのは、感動的に好きなのですが、いかんせん素人なので、実物を一人で見ただけでは、何もわからず残念です。

    1. soutaro-tanaka より:

      花田さん,コメントありがとうございます。
      ブラタモリを見ていると,NHKの天然ぼけ女子アナでも次第に地学オタクっぽく成長していくのがわかって面白いです。何事も好奇心と経験だと思います。
      かみね公園に点在する花崗岩は日本で最も古いカンブリア紀の地層(岩石ではなく)ですよ。

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