放射性元素の壊変によって親元素から娘元素が生じていく過程は,100個のサイコロを振って出た①の目を取り除く実験→こちら,で紹介していますが,実際の自然界の現象は,まさに確率の計算どおりの結果が示されるということになります。ギャンブルではなく,確率どおりになるのは,試行回数がべらぼうに大きい(化学のアボガドロ数をあつかう)からですが,初めて元素の崩壊の話を聞いたときに,一個一個の原子が,まるで自分の寿命をわきまえているかのような気がして不思議に思ったのを覚えています。それと半減期の計算を数式でやると基本的とはいえ,微分方程式を解くという問題でもあって,高校数学レベルでは難解な問題に当たると思います。最近プログラミングをやるようになって,微分方程式が数値計算だと簡単に解けることを知ったり,対数と小数の発見物語を読んだりして,そういうことだったのかと自分なりに納得したので,自身の理解のほどを確かめる意味で説明してみたいと思います。

微分というのは,微少な時間変化にともなう割合(率)のことで,加速度運動で言うと,速度の変化率を$\frac{dv}{dt}$と示して,加速度$a$と書きます。このとき$v=at$($v$は$t$の関数)で値を求めますが,$\frac{dv}{dt}=a$と書けば,これも一種の微分方程式になります。両辺を$t$で積分すると,$v=at$ になります。

放射性元素の崩壊過程は,\begin{equation}\frac{dN}{dt}=-λN\end{equation}と表わされます。$N$; 放射性物質の量,$t$; 時間, $λ$; 壊変定数で時間が進むと,一定の割合$λ$で$N$が減っていくが,$\frac{dN}{dt}$ はそのときの$N$の値によって決まるという意味になります。
この微分方程式は,基本的な変数分離形というタイプなので,変形して\begin{align*}\frac{dN}{N}=-λdt\end{align*}
として,両辺を積分すると(積分の記号$\int$ をつける)\begin{align*}\int\frac{dN}{N}=\int-λdt\end{align*}
左辺は,$\int\frac{1}{N}dN$ですから $\frac{1}{N}$を積分すると$\log{N}$, 右辺の λは定数なので,$-λt$となって\begin{align*}\log{N}=-λt+C\end{align*}
となります。微分方程式は,多くは式を変形して両辺を積分することで解けますが,はじめは一般解となって積分定数の$C$ が現われるので,初期条件というのを決めてやります。この場合,はじめ($t=0$)での元素の量(数)を$N_{0}$とすると,$C=\log{N_{0}}$なので,\begin{align*}\log{N}=-λt +\log{N_{0}}\end{align*}\begin{align*}\therefore \log\frac{N}{N_{0}}=-λt \end{align*}となり,$\log$の底は,自然対数ですから$e$, 対数の関係から\begin{align*}\therefore\frac{N}{N_{0}}=e^{-λt}\end{align*} \begin{equation}\therefore N=N_{0}e^{-λt}\end{equation}
これが式(1)の解ですが,式(2)へ,いきなり書かれている説明が多いので,理解の助けになればと思います。

壊変定数は,サイコロの場合なら出た①の目を崩壊した原子とすれば,その確率$\frac{1}{6}$に相当し,初期値を$N_{0}$を100,時間をサイコロを振る回数としてグラフにしたのが次の図です。これはいわゆる,指数関数的な現象のグラフで,放射性元素の崩壊以外にも,物体の温度変化やなど様々な自然現象に現われるもので減衰曲線とも言われます。指数関数的増加は預金の複利計算とか人口の増加とかコロナウィルスの爆発的感染拡大などにあてはまります。Paythonで数値計算のコードと描いたグラフを載せます。

import matplotlib.pyplot as plt

dt = 1   #時間間隔(回)
t = 0.0
T = []  #時間推移
lamb = 0.166667   #壊変確率(1/6)
N0 = 100   #No:はじめの数
Num = N0
Y = []   #縦軸の値

while Num > 0.1: 
    print(t,"  ",Num)
    T.append(t)
    Y.append(Num)
# ルンゲ・クッタ法による数値計算
    k1 = dt * (-lamb * Num)
    k2 = dt * (-lamb * (Num + k1/2))
    k3 = dt * (-lamb * (Num + k2/2))
    k4 = dt * (-lamb * (Num + k3))
    Num = Num + (k1 + k2*2 + k3*2 + k4)/6
    t += dt

plt.plot(T, Y)
plt.xlabel('Time')
plt.ylabel('N')
plt.legend(['N'])
plt.axis([0, 50, 0, 100])
plt.grid()

plt.show()

半減期とは,はじめの元素の数$N_{0}$ が$\frac{1}{2}$ になる時間のことで,
\begin{align*}N=\frac{1}{2}{N_{0}}\end{align*}\begin{align*}\therefore \frac{1}{2}N_{0}=e^{-λt}{N_{0}}\end{align*}\begin{align*}\therefore e^{-λt}=\frac{1}{2}\end{align*}
ですので,両辺の自然対数をとれば,\begin{align*}\log \ e^{-λt}=\log\frac{1}{2}\end{align*}
\begin{align*}\therefore -λt\log \ e=\log{1}-\log{2}\end{align*}となって,関数電卓でlnの2を出してみれば,
\begin{equation}\textcolor{red}{t=\frac{0.6931}{λ}}\end{equation}となります。この$t$ を,半減期を意味する$T$ と表わすことにして,高校物理などでは
\begin{equation}\textcolor{red}{N=N_{0}\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}}\end{equation}のような式で説明されていると思います。たしかに半減期が与えられていて,対数を使えば残りの元素の量と経過時間の関係を求めることができますが,高校時代この式とグラフや壊変定数との関係が分からずじまいだった気がします(昔のことをよく覚えているものです)。

また,素粒子物理学では,半減期を使わずに「平均寿命」を使うと言います。サイコロで考えると,分かりやすいのですが,サイコロが本物の放射性元素だったとして100個のサイコロの中にはほとんど最初から最後まで①が出ないものもあれば,数回の内に①の目をだしてなくなってしまうものもあるわけです。すぐ消えてしまうか,最後まで生き残るかの平均は,全部のサイコロの寿命の合計を,$N_{0}$ (100)で割った平均になります。それは上のグラフの横軸の長さを100個分,積分して求めた面積になります。ただし,面積を求めるのにはグラフの縦軸方向で積分して求めても良いので,
\begin{align*}\int_{o}^{\infty}N_{0}e^{-λt}dt=N_{0}\left[-\frac{1}{λ}e^{-λt}\right]_{0}^{\infty}=N_{0}\frac{1}{λ}\end{align*}
となりますので,平均は $N_{0}$ で割って,$\frac{1}{\lambda}$ で,これが「平均寿命」です。

シンプルですね。たとえば,サイコロの$λ$ =壊変定数は,$\frac{1}{6}$ですから,平均寿命は6(回)ということです。確率的に正しいというかとても納得がいきます。

自然対数の底である,$e$(ネイピア数)の特性で,壊変定数が決まっていれば,どこから初めても「はじめの半分になる時間が同じである」という性質は面白いかもしれませんが,半分というのは,人間の都合で決められたにすぎないとも言えます。数学的には壊変定数の逆数である「平均寿命」のほうが,言葉は人間くさいですが,意味のある値だと私は思いました。まあ,(3)式から,平均寿命と半減期の関係を,半減期≒$0.7\times$平均寿命,と覚えておくのも良いかもしれません。
右の図および,作成に当たって大村平「改訂版 微積分のはなし(下)」日科技連を参考にしました。