地学や地理で,流水の働きでV字谷や扇状地,河岸段丘といった地形ができるということを学びます。学問的にはあまり進展のない分野というか,中学高校レベルではただそういうものがある,という暗記するだけの問題ととらえられるでしょう。日本では,河岸段丘の形成年代を広域火山灰を利用して明らかにするといった地形発達史という分野があり,古くはデービス(W.M.Davis,1850~1934)の地形輪廻という時間軸をとりいれた理解もありますが,あまり理学的な原理や法則が伴わないので,理科とは呼べないように思ったりします。東京都立大学名誉教授の野上道男先生(私の恩師)は以前からDEM(数値標高モデル)データを使って,地形計測や地形発達シミュレーションを行っています。コンピューターを使った数値計算の理解が必要ですが,野上先生が数学セミナー(1996年11月号)という雑誌で紹介されている水系網に関するホートンの法則は,地形図の等高線を読んで水系網を描けば,確かめることができます(数学セミナーは大学の図書館などで複写してもらわないと入手できないです→水路網の数理pdf)。これを地学の授業で行う実習プリントを作ったので,紹介します。

【ホートンの法則】川は合流を繰り返しながら,やがて海に達する。ただ,河口付近では三角州ができて下流にむかって分岐するような場合(マングローブ植物の根のような)もあるが多くはない。この枝分かれの図は水路網とか水系図などとよばれ,河口を出発点に木(ツリー)構造(binary)をもっているとすることができる。地形図で山奥の川の枝分かれを眺めていると気が付くことだが,3つの川が同じ場所で合流することはほとんどない。あったとしても非常にまれなので三俣とか十字峡とよばれる地名になるはずである。

すなわち,河川網は2分木であるとみなすことができる。1945年にホートン(H.E.Horton)という水文学者が自然河川網について,1つの経験則を発表した。水源点から流れ出す水路を1次の水路とし,以後下流に向かって水路の次数(order)を次のように定義する。「同じ次数の水路が合流した場合は合流点より下流の水路の次数は1つ上がる,異なる次数の水路が合流した場合は大きいほうの次数を継承する」(上図)。

このように次数付けを行い,次数ごとに水路が何本あるかを数えてみると,次数が1つ小さくなるごとに水路数が4倍になる次数を iとし,i 次の水路の本数を Ni とすると、 Ni = 4 x Ni+1 (i > 0) であらわされる。これがホートンの法則である(この比4を分枝比という)。その後多くの人が世界各地で(すなわち地質条件や気候条件の異なる)河川網の計測を行って,この比がほぼ4になることを確かめた。

課題

  • 上の地形図(関東山地雲取山の南西斜面)の黒枠内の流域の水系網を描く。渓流から標高の高いほうに向かって,等高線が谷向きに湾曲していることを手がかりに,集水域をたどり,1次の水路を山の稜線近くまで伸ばす。
  • すべての水系が描けたら,1次の水路,2次の水路,3次,4次まで判定し,色分けする。
  • 次数ごとに水路の本数を計測する。
  • 分岐比を計算し,ホートンの法則が成り立つか考察する。

結果の例(水系網図)

水系の次数を色分けしたもの(水系網はQGISで作成)

水系網図の描き方によりますが,結果はおおむね分岐比が4であることが分かります(3~5のあいだ)。自然界(描いた水系網)にこのような法則が見いだされるのは不思議なことのように思えます。実は,このような現象は河川だけでなく,生物の血管網や樹木の枝分かれにもあることに気づくでしょう。分枝比は,最も小さいのが下図(左)のような,一本が必ず2本になる場合(分枝比=2)が最小で,右のような最大となる場合(流路nに対して2nとなる)の両極があるのですが,合流をランダムに行うと,分岐比が4になるということが,1960年代に数学的に確かめられました(シュレーブ:R.L.Shreve)。以上,説明に関しては,ほとんど野上先生の数学セミナーから引用させていただいています。