星空の観察で目を引くのは冬のオリオンを中心とした1等星の群れと夏の大三角やさそり座,いて座の天の川などがあげられます。春と秋に目立つ星々が少ないのは,ひとえに天の川のない領域の星座が見えるからです。私たちの銀河系は円盤状をしているため星が集中する範囲は,天空をぐるっと一周しておりそれが天の川であることは,中学の理科で習うことがらです。逆に言うと,春と秋の夜空は銀河系の外を観察するのに適しているとも言えます。といっても,遠い宇宙の銀河が見やすいという意味で望遠鏡を使って,という前提があります。それで,少しでも気分を盛り上げようという意味で「春の銀河祭」という言葉が天文愛好家から生まれたのだと思います。
実際に,天体写真撮影でも,1月2月ころになると夜半からは撮るべき対象として大きな散光星雲などがなくなってしまい,長焦点でしか狙いにくい,北斗七星のおおぐま座やしし座の銀河になってきます。今までに,撮影した春の主な銀河をここで並べてみようと思います。約2年前からBKP200という20㎝f900㎜の反射望遠鏡とASI533MCPという冷却CMOSカメラで撮影したもので,トリミングしていない画像ですので同じ画角縮尺で比較できると思います。
北半球では,もっとも有名なアンドロメダ銀河とさんかく座のM33に次ぐ3番目に大きい銀河です。おおぐま座の頭近くにあって,12月くらいから撮影可能で,何度か撮影していますが,現在の機材と画像処理でこんな感じというところです。距離は1180万光年で銀河としては近いですね。左上にある雲のようなものは,伴銀河とか矮小銀河と呼ばれる星の集団で,我々の銀河系のマゼラン雲のような天体。そのような天体の研究者からホルムベルク IXと名がつけられています。
M81のすぐ隣にあり,M81からの重力の影響によってスターバースト(爆発的星形成)が起き,水素の赤いガスが噴き出ていると言われています。不規則銀河に分類されます。
M81の次に大きいフェイスオンと呼ばれる渦巻を真上から見るまさに渦巻銀河で,その名も回転花火と呼ばれています。北斗七星のひしゃくの柄の北側にあり,距離はおよそ2000万光年。これを撮影した3か月後の5月には,超新星が出て近年ではもっとも近い場所で起きたとされます。
北斗七星のひしゃくの柄の南にあり,距離2100万光年。名前の通りNGC5195という伴銀河が隣接していわば衝突中という特徴をもつ。ので,M101より小さいですが知名度は高いと思います。20㎝のニュートン反射でもここまで写ることに感激した初の撮影でした。
北斗七星のひしゃくの南側にあり,大きさではM101に匹敵しますが光っているのが中心部だけのためか,あまり知名度は高くありません。渦のようすも乱れているようなやや訳ありな感じがしますが,天体写真として色合いもよくお気に入りになりました。りょうけん座では,次のM63も有名です。
英語でもSunflower Galaxyと呼ばれているそうで,渦の暗黒体構造が特徴的な銀河です。銀河の形や表情はいろいろでハッブル以来分類やでき方が議論されていますが,最近は銀河どうしの合体や,併合によって進化することが主な原因とされているようです。このりょうけん座の多くの銀河(M51など)は同一の銀河群に属するそうです。
NGCナンバーになりますが,北斗七星のひしゃくの南にある距離約5000万光年の銀河のペアで,互いに重力干渉していると考えられています。一説に3729が3718を貫通したのだとか。それでNGC3729がこのような棒状(棒渦巻)の構造になったと言われると,何となくわかる気がします。お互いはまだ引っ張り合っているので,やがて再び衝突するのだとも。銀河どうしの衝突のシミュレーション動画は検索するとたくさん出てきます。我々の銀河系が40億年後にはM31アンドロメダと衝突するようすも動画で見られます。左に小さな銀河が5つまとまっているのはヒクソンコンパクトグループ(HCG56)という銀河群で5億光年も先にあるそうです。
しし座の大釜(頭部)の近くにあるNGCナンバーの銀河ですが,メシエ天体並みの大きさと明るさの銀河です。渦巻といいまわりのハロー(薄いベール上の部分)といい表情豊かでもあります。昔,星雲星団を望遠鏡で肉眼で見ていたころは,10㎝以上の望遠鏡でも銀河になると細かい構造までは分からずぼんやり楕円形の光が見えるだけでしたが,こうして自分で写真に出来るようになったのは大げさかもしれませんが,夢のような気がします。
しし座のうしろ足の付け根付近にある,しし座のトリオ(三つ子)銀河うちの2つです。距離約3500万光年で近接していますが,互いの重力での干渉はあまりないそうです。右の66の方は色が黄色っぽく,これは星の形成があまり活発でなく,年老いた星の集団で,一方の65の方は青みがかって星形成が活発であることが分かります。
しし座トリオ銀河のもう一つ。銀河の円盤を真横から見たエッジオンという姿になります。中央の暗黒体と両端が上下にはねているような形が特徴で,ハンバーガー銀河と呼ばれることもあります。
これぞ銀河どうしの衝突現場というもので,互いの潮汐力(?)によってのびた2本のアンテナ状の構造が特徴。銀河の中では星形成が活性化して青や赤の活動領域が見える。すこし露出不足で,今後撮増してみたいと考えています。
うみへび座の尾に近い赤経-30°くらいにあるので,撮る機会はそう多くないですが,南の回転花火銀河と呼ばれるようにフェイスオンの渦巻がきれいな銀河。中心部分のバルジ(中心部)は横に伸びて棒状で,棒渦巻銀河に分類される。渦巻の腕の部分には,通称赤ポチと呼ぶ星形成領域が目立ち,円盤部も青みが強いアンドロメダやM33などでも見られる特徴がはっきりしている。距離は1500万光年と比較的近く,視直径から考えて実際の大きさもコンパクトと言えます。
さらに南に低い位置にある,ケンタウルス座の電波源で有名。2つの銀河が合体してこのような姿をしているそうで,太陽の放出するエネルギーの5千万倍の電波を出し続けいるという。南に低く撮影機会が少ないですが,銀河の中では5番目に明るい7.8等というので,撮影してみました。
形と名前で有名な銀河かと思います。暗黒体が見えることから渦巻銀河とされてきましたが,近年は楕円銀河に円盤が付いたものとか,距離も2000万光年から5000万光年まで差があったり,ネットで解説を読んでもはっきりしない感じがします。小さいですが比較的明るい(8.0等)なので,自宅のベランダからでもよく写ります。おとめ座にありますが,おとめ座銀河団には属さないそうです。
エッジオン銀河の典型として知られています。かみのけ座とおとめ座の境目付近には銀河の密集域があっておとめ座銀河団ないしおとめ座超銀河団と呼ばれています。おとめ座銀河団の距離は5900万光年で直径1200万光年ほどの広がりに約2500個の銀河が集まっており,私たちの銀河系は局部銀河群を形成していて,それも含めた大集団を超銀河団という,ということなのですが,見える個々の銀河がどの辺かということになると,そういうグーグルマップのようなものが出来ているもののほとんどなじみはない,というのが一般的だと思います。
距離5600万光年にあるおとめ座銀河団の銀河としては明るく大きい方,渦巻もはっきりしていそうなので撮影してみました。伴銀河なども多いので,PixInsight の機能でアノテーション(注釈)を入れてみました。この南側はおとめ座で,ブラックホールが撮像されたM87 などが群れをなすマルカリアンチェーンという領域もあります。銀河系の星の数もさることながら,宇宙がどんだけ大きいかを考えるには,実像を見ることも必要でそういう意味でいろいろ銀河を眺めるのはとても楽しいことだと思います。
だんだんマニアックな銀河になってきましたが,かみのけ座の銀河としてはこれも大きく明るい方(M天体並み)です。検索すると中間棒渦巻銀河とかかれており,銀河の腕がリングのようになっているのが特徴のようです。上にある小さなNGC4712は距離2億光年といいますが,その割に大きく構造も見られる気がします。我ながらよく撮れているなと思っている1枚です。これもひとえに最近の画像処理ソフトの進化によるもので,ここまで解像力が上がると,プロの天文学者の宇宙や銀河の研究に迫れるような気がしています。まだ,いくつかの画像は風があったり,露出が足りなかったりで取り直したいものもありますので,今後更新するつもりですが,春の銀河というシリーズで一応まとめてみました。